三菱ふそうトラック・バス株式会社(FUSO)様は、診断精度と対応スピードがサービス品質を左右する、要求水準の高い自動車サービス環境で事業を展開しています。整備士はCanter・E-Canter(EV)・Super Greatといった多様な車種を扱い、主に日本語で記述された大量かつ静的な技術マニュアル(配線図など図版中心で検索性が低い)を読み解く必要があり、診断には多大な時間と熟練者への依存が生じていました。長年のパートナーであるCubastionは、RAGを用いた生成AI診断アシスタント「診断チャットボット(DTC)」を構築しました。
Challenge
静的な多言語マニュアルと属人的な診断
事業・技術の両面で生じていた課題をご紹介します。
整備士は機械・電気・電子の各領域にまたがる課題を、厳しいリードタイムのなかで診断する必要がありました。情報が不足しているのではなく、必要な知識に迅速かつ文脈に即してアクセスし、適用できないことが本質的な課題でした。
ビジネス面の課題
- マニュアルの手作業ナビゲーションによる診断工程の長時間化
- 複雑な問題解決における熟練整備士への高い依存
- 拠点・地域による診断品質のばらつき
- 明確なエラーコードのない症状ベース診断の難しさ
- 多言語の技術文書の解釈の難しさ
技術面の課題
- 構造化・非構造化が混在する大量の技術文書
- 図版中心で検索可能なテキストに乏しいコンテンツ
- 日英間での正確な多言語処理(技術用語の保持)
- 整備現場で求められるリアルタイムかつ文脈に即した応答
Solution
Cubastionの解決策 ― 生成AI × RAG 診断アシスタント
提供した診断機能をご紹介します。
DTCは、自然言語または診断コード(DTC)で照会でき、構造化された実行可能なインサイトを返す生成AIアシスタントです。文書を「探す」プロセスを、問題を「解決する」プロセスへと転換します。
- インテリジェントな診断クエリ:DTCコードと症状ベースの双方に対応し、正確なコードやキーワード一致に依存しない
- アクション指向の診断ガイダンス:根本原因の説明、手順化されたトラブルシューティング、是正・予防策を提示
- 図版を理解する支援:関連する配線図・回路図を提示し、テキストと物理システムを紐づけ
- 多言語診断:日英いずれでも照会可能で、技術的正確性を保持
- ワークショップ最適のUX:音声入力・読み上げ、コピー、フィードバック、会話履歴に対応
- 文脈を保つ対話:フォローアップや会話間の文脈を維持し、入力に応じて応答を最適化
Architecture
本番運用を支える4層のクラウドネイティブ構成
FUSOのエンタープライズ環境で安定稼働するシステム構成です。
モノリシックな構成ではなく、責務を明確に分離したモジュール型の4層アーキテクチャとして設計しました。ある層(AIモデルや文書セット等)の改善が、システム全体の安定性に影響しない構造です。
- アプリケーション層:React / Chakra UIによる応答性の高いUI。テキスト・音声入力、日英の動的切替、図版表示、最大30日間の履歴
- AIインテリジェンス層:LLMとRAGにより検証済み文書に基づく応答を生成。DTC検出・車種文脈の推論、画像関連度スコアリング、リアルタイム翻訳
- データ・ナレッジ層:マニュアル・図版のBlobストレージ、セマンティック検索のためのベクトルインデックス、会話履歴・嗜好・評価の保管
- セキュリティ・基盤層:Azure Kubernetesでのコンテナ運用、エンタープライズ認証とRBAC、ステートレス設計による高可用性
Capabilities
この事例で実証された提供価値
お客様がCubastionと取り組める領域の一例です。
本プロジェクトを通じて、以下の専門領域における実装力を実証しました。
- 技術領域向けRAG:AI推論と構造化された知識検索を組み合わせ、文脈に根ざした正確な応答を提供
- ドメイン特化の多言語AI:技術的文脈を保持したまま、日英の言語の壁を解消
- 静的文書からのナレッジ変換:大量の静的マニュアルを、即座に検索可能なインテリジェンス層へ転換
診断を、経験頼みの手作業による検索から、システムが支援する高速で一貫した意思決定へと転換しました。本事例で確認された主な効果は次のとおりです。
- マニュアル探索・解釈の時間短縮による診断効率の向上とサービス回転の高速化
- 手順化された診断ガイダンスによる初回解決率の向上と診断ミスの低減
- 熟練者依存の低減と、複雑な技術知識への容易なアクセスによる新人整備士の早期戦力化
- 拠点・地域を超えた診断プロセスの標準化と、ナレッジアクセスの改善